肺高血圧症の診断

肺動脈性肺高血圧症(PAH)の診断基準

PAH確診安静時平均肺動脈圧が25mmHg以上
PAH疑い安静時平均肺動脈圧が21~24mmHg
正 常安静時平均肺動脈圧が20mmHg以下

肺高血圧症の診断手順

施設ごとに違いはありますが、肺高血圧症が疑われる方には以下のような手順で検査を行います。肺高血圧症の原因には様々なものがあるので、確定診断にまで結びつけるためには様々な検査を行うことが必要になります。

無症状でもスクリーニングが推奨される症例

以下の基準に当てはまる方は、通常よりも肺高血圧になるリスクが高いため、定期的にスクリーニング検査を行うメリットがあると考えられています。

  • 肺高血圧症をきたす遺伝子異常が認められる人
  • 家族性肺動脈性肺高血圧症患者の1親等の家族
  • 強皮症の患者
  • 肝移植前の門脈圧亢進症の患者
  • シャントをもつ先天性心疾患の患者

McGoon M, et al: Chest 126: 14S-34S, 2004を参考に作成

PAHが疑われる患者の問診例

肺高血圧症の専門外来では、診断や症状の重さを判定するために以下のような事項に関しての問診が行われることが多いです。

所見問診内容例
家族内発症の有無家族や近い親戚に膠原病やPAHと診断された方はいますか?
類似疾患の有無高血圧や心臓病、喘息と診断されたことはありますか?
運動・労作時の息切れ登り坂や階段を途中で休むことなく昇ることができますか?
呼吸困難日常のちょっとした作業や動作の直後に息苦しくなりますか?
易疲労感特別な理由が思い当たらないのに普段から体がだるく疲れやすいと感じますか?
胸痛歩いたり階段を昇ったりしたときに胸が痛くなり、少し休息することで痛みがおさまることがありますか?
めまい・立ちくらみ・失神急に立ち上がったり、急いで歩いたり走ったりすると胸が苦しくなったり、しゃがみ込んだりしたことがありますか?
下肢・下腿の浮腫足にむくみがみられますか?
顔面浮腫以前より顔が大きくなったなど、容貌が変わったと感じますか?
咳嗽ちょっとした動作がきっかけとなって咳が出ることがありますか?

重症度分類

肺高血圧の患者さんは症状の重さによって4つの段階に分類されます。症状の重さも治療法を検討していく上では重要になります。

WHO肺高血圧症機能分類

Ⅰ度身体活動に制限のない肺高血圧症患者
普通の身体活動では呼吸困難や疲労、胸痛や失神など生じない。
Ⅱ度身体活動に軽度の制限のある肺高血圧症患者安静時には自覚症状がない。
普通の身体活動で呼吸困難や疲労、胸痛や失神などが起こる。
Ⅲ度身体活動に著しい制限のある肺高血圧症患者安静時には自覚症状がない。
普通以下の軽度の身体活動では呼吸困難や疲労、胸痛や失神などが起こる。
Ⅳ度どんな身体活動もすべて苦痛となる肺高血圧症患者これらの患者は右心不全の症状を表している。
安静時にも呼吸困難および/または疲労がみられる。
どんな身体活動でも自覚症状の増悪がある。

主なスクリーニング検査と所見

検査項目 主な所見
心電図 右室肥大、右軸偏位、右房肥大などが認められる。
ただし感度・特異度ともにさほど高くなく、重症例でも異常がみられない場合もある。
胸部X線 左右肺動脈本幹部の拡大、左第2、4弓突出、末梢肺血管陰影の減弱などがみられる。
ただし無症状のPAHではX線所見も正常であることが多い。
他の肺病変の確認に有用。
心エコー・
ドプラ法
三尖弁逆流速度による推定右室収縮期圧40~50mmHg以上が肺高血圧症の目安とされている。非侵襲的に肺動脈圧を測定できるが、肥満など患者の状態により検査結果が左右されるため、確定診断は右心カテーテル検査で行うことが望ましい。

確定診断のためには精密検査が必要

検査項目 主な所見
右心
カテーテル
肺動脈圧をもっとも高い精度で測定できる。他疾患との鑑別にも有用であり肺動脈性肺高血圧症の診断には必須の検査である。
CT 非侵襲的に、肺高血圧症に伴う心臓や肺血管の形態変化を検出するのに有効である。また肺実質の形態変化も観察できるため、基礎疾患や原因疾患、他疾患の検出にも有用である。
MRI CT同様非侵襲下で、さらに被曝もなく、肺動脈血流パターンや血流量・速度の評価、心機能の評価ができる。
シンチグラム 放射線同位元素で標識したトレーサーを用いる検査法。
肺血流シンチグラムでは肺動脈の血流分布が画像化され、肺血栓症との鑑別が可能となる。
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