肺高血圧症とは

肺高血圧症

心臓から肺へと向かう肺動脈の血圧が上昇した結果、心臓や肺の機能に障害をもたらし、心拍出量(心臓の元気さ)の低下や低酸素血症などを引き起こす、病気の総称です。

肺動脈性肺高血圧症(Pulmonary Arterial Hypertension:PAH)

肺高血圧症の中心的疾患です。
下の項の図のように肺の小さな動脈が細くなり、肺血管抵抗が増加するために肺動脈の血圧が上昇する病態です。

肺高血圧症の発症・進展の3要素

肺高血圧症においては肺動脈に上記の血管の変化が起こってくることにより、次第に肺への血流が悪くなっていきます。

肺動脈性肺高血圧の病態

肺動脈性肺高血圧症は肺の小さな動脈が狭窄することにより発症します。その結果、肺に血液を送る役割を果たしている肺動脈の血圧が上昇し、心臓(右心室)に負荷がかかります。肺高血圧症が進行してくるとやがて心臓が機能不全を起こし、右心室の働きが悪くなる状態(右心不全)を引き起こします。

肺高血圧症の最新分類

肺高血圧症は、肺高血圧症を引き起こす原因別に分類されています。本分類は2008年の第4回肺高血圧症ワールドシンポジウムで決定されてものであり、全世界で共通して使用されています(シンポジウムが開催された都市の名前をとって、Dana Point分類と呼ばれています)。

肺高血圧症と診断された際には、どのタイプの肺高血圧症か主治医に確認するとよいでしょう。

1. 肺動脈性肺高血圧症(PAH)

1.1. 特発性肺動脈性肺高血圧症(IPAH)
 1.2. 遺伝性肺動脈性肺高血圧症(HPAH)
 1.2.1. BMPR2
 1.2.2. ALK1、endoglin
 (遺伝性出血性毛細血管拡張症合併あるいは非合併)
 1.2.3. 不明
1.3. 薬物および毒物誘発性
1.4. 他の疾患に関連するもの
 1.4.1. 結合組織病
 1.4.2. HIV感染症
 1.4.3. 門脈圧亢進症
 1.4.4. 先天性心疾患
 1.4.5. 住血吸虫症
 1.4.6. 慢性溶血性貧血
1.5. 新生児遷延性肺高血圧症

1’. 肺静脈閉塞性疾患(PVOD)および/または 肺毛細血管腫症(PCH)
2. 左心疾患による肺高血圧症

2.1. 収縮障害
2.2. 拡張障害
2.3. 弁膜症

3. 肺疾患および/または低酸素による肺高血圧症

3.1. 慢性閉塞性肺疾患
3.2. 間質性肺疾患
3.3. 拘束型閉塞型の混合型を示すその他の呼吸器疾患
3.4. 睡眠呼吸障害
3.5. 肺胞低換気症
3.6. 高地への慢性曝露
3.7. 成長障害

4. 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)
5. 原因不明の複合的要因による肺高血圧症

5.1. 血液疾患:骨髄増殖性疾患、脾摘
5.2. 全身疾患:サルコイドーシス、肺ランゲルハンス細胞組織球症:リンパ脈管筋腫症、神経線維腫症、血管炎
5.3. 代謝疾患:糖原病、ゴーシェ病、甲状腺疾患
5.4. その他:腫瘍塞栓、線維性縦隔洞炎、透析中の慢性腎不全

わが国の肺高血圧症の患者数は年々増加中

  • 厚生労働省に提出された特定疾患医療受給者証交付件数より推計すると、平成21年度のわが国の原発性肺高血圧症 (IPAH/HPAH)患者数は1,272人で、年々増加傾向にあり、年間約100人ずつ増加しています。
  • IPAH/HPAHはあらゆる年齢で発症しますが、平均発症年齢は41.9歳とされています。
  • 男女比は1:2.6と女性が2倍以上多いことがわかっていますが、その原因は明らかではありません。

肺高血圧症と高血圧症の違い

高血圧症(本態性高血圧症)と肺動脈性肺高血圧症は名称は似ていますが、病態も治療法も全く異なる疾患です。以下に相違点をお示しします。

スクロールできます
肺動脈性肺高血圧症(PAH)本態性高血圧
本態肺動脈圧上昇
  
心機能および肺機能(換気など)の障害
体循環の血圧上昇
  
心血管系の傷害
病態を形成する主な因子PGI2系(降圧系)、一酸化窒素(NO)(降圧系)、エンドセリン(昇圧系)レニン-アンジオテンシン系(昇圧系)、交感神経系(昇圧系)、キニン-カリクレイン系(降圧系)、心房性Na利尿ペプチド(降圧系)、他多数
リスク因子遺伝子、家族歴、膠原病、女性、HIV、食欲抑制剤の服用、先天性心疾患、肝疾患食塩の過剰摂取、精神的ストレス、家族歴、喫煙、メタボリックシンドローム、男性
症状:初期なしなし
症状:進行期労作時呼吸困難、胸痛、失神ほとんどなし、めまい、顔面潮紅、頭痛
症状:臓器障害右心不全虚血性心疾患、脳卒中、腎不全、左室肥大
典型的な
進行過程
肺小動脈の狭窄
  
肺動脈圧の上昇
  
右心不全
末梢血管抵抗の増大
  
血圧(体動脈圧)の上昇
  
大血管の動脈硬化
  
臓器障害
診断右心カテーテルによる肺動脈圧測定上腕での血圧測定
治療PGI2製剤、エンドセリン受容体拮抗薬、ホスホジエステラーゼ(PDE)-5阻害薬が中心
薬物療法で改善しない場合は、肺または心肺移植を考慮
Ca拮抗薬、利尿薬、ACE阻害薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬、β遮断薬、α遮断薬の中から、原因や合併症により選択
正常血圧平均肺動脈圧:20mmHg未満収縮期:130mmHg未満、拡張期:85mmHg未満
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